症状別、漢方薬の処方例

漢方薬の処方例

漢方医学では病状だけでなく、体質や体調の情報を含め患者さんの状態を総合的に把握した後に処方を選びます。
この点はとても大切なことなので、処方を提示する前に少し解説させて頂きます。

症状とは、病気によって起こる様々な現象(発熱、発疹、悪寒、疼痛etc.)のことをいいます。
病状とは、症状に加え、その症状の重症度を含めて表すときに用います。同じ頭痛でも、死ぬほど強烈な頭痛もあれば、少し痛いかな…と言う程度の軽いものもあります。どちらも同じ頭痛という症状に変わりありませんが重症度の点で病状が違います。
西洋医学では、ドラッグストアで買ってきた頭痛薬を1錠だけ飲むか2錠飲むかなど、頭痛の程度に合わせて服薬量を変えることがありますが、漢方では病状によって処方が異なり、軽い頭痛と重い頭痛ではそもそも用いる処方が異なってきます。

さらに漢方では、漢方薬を飲む人の「体質や体調も病状と同レベルの重要情報として扱い、体質や体調の違いによっても処方を変えます。例えば、病気の方が寝たきりの状態なのか、やや体力が低下しているのか、普通と言えるか、見た感じ病気とは思えないくらいエネルギッシュなのかetc. などによって使う処方を意図的に変えます。

このため漢方薬では同じ病状であっても患者さん毎に処方が異なることが普通です。この点は患者さんの体質に関係なく、症状が同じであれば基本的に用い薬剤が同じになる西洋医学と大きく異なります。

漢方では、症状、症状の重症度(病状)、患者さんの体質、体調、年齢、性別、性格、主訴以外の有無など、これらの情報を総合的に判断した上で処方を決定します。このため、単に症状別で処方を提示する場合は、患者さんが見えない以上、(本当は的確な処方を示したくても)可能性のある処方を羅列することしかできません(申し訳ありません)。

1・不眠症

不眠の原因はいろいろなものがあります。大きくはストレスによるもの、日ごろの運動不足によるもの、寝る前のスマホやパソコン作業など様々ですが、女性の方では更年期障害によるものなどもあります。最近ではご高齢の方の不眠も増えています。
漢方処方としては、患者さんの生活習慣、精神状態、体力などを見極めつつ、主に「気」の停滞を解消する処方を用います。例えば、仕事のストレスが強くて寝つきが悪い場合は、緊張状態の緩和やストレスの軽減を目指します。女性の方で更年期における自律神経の失調に起因するような不眠の場合は血の道症向けの処方を用います。

酸棗仁湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、帰脾湯、柴胡桂枝乾姜湯、加味逍遥散、半夏厚朴湯、抑肝散加陳皮半夏、黄連解毒湯、柴胡加竜骨牡蛎湯

 

2・神経症

神経症やヒステリーなどの症状には、不眠症と同じく気の流れをスムーズにする処方を用います。神経症の治療には処方の選択だけでなく患者さんの言葉に耳を傾ける必要があります。

加味帰脾湯、甘麦大棗湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、半夏厚朴湯、抑肝散、柴胡清肝湯、苓桂朮甘湯、柴朴湯、香蘇散、参蘇飲、加味逍遥散、四逆散、三黄瀉心湯、大承気湯、黄連解毒湯、柴胡加竜骨牡蛎湯

 

3・アレルギー性鼻炎、花粉症、蓄膿症

アレルギー性鼻炎や花粉症は、体の中のリンパ球がアレルギーに関与する抗体(IgE抗体)を作ることが原因となって発症します。漢方では体内の「水」の過剰や偏りにより起こることが原因(これを水毒と言います)と考え、主に体内の水のバランスを整える処方を用います。
アレルギー反応が慢性的におこり、副鼻腔内で細菌が繁殖して炎症が起こる状態を蓄膿症といいます。アレルギー性鼻炎、花粉症、蓄膿症の何れの病気も、漢方薬によってアレルギー体質そのものを改善することにより完治に導くことができます。

麻黄附子細辛湯、辛夷清肺湯、小青竜湯、大青竜湯、葛根湯、麻黄湯、葛根湯加川芎辛夷

 

4.気管支喘息

気管支喘息はアレルギー反応などにより慢性的に気管支炎が起来ている症状で、慢性化が続くとアレルギー反応が無くても気管支が過敏になって行きます。最悪の場合は発作(喘息発作)を引き起こし命に係わる怖い病気です。喫煙やばい煙の吸入など明らかな要因がない場合、9割以上がハウスダストやペットの毛などによるアレルギー反応が原因であり、この場合も水毒を解消する処方が用いることが多く、症状(喀痰の性質など)により使い分けます。

麦門冬湯、八味地黄丸、蘇子降気湯、清肺湯、滋陰至宝湯、柴陥湯、参蘇飲、柴朴湯、半夏厚朴湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯、小青竜湯、神秘湯、五虎湯、麻杏甘石湯

 

5.常習性便秘

便秘と一言にいっても、裏に大腸がんや子宮筋腫などの病気が隠れている場合(器質性便秘といいます)があり、安易な診断で処方を決定することは危険です。多くの方の便秘は病気がない便秘(常習性便秘)と言われるもので、これには緊張型と弛緩型の2種類があります。

漢方処方としては患者さんの体質や性格、年齢および精神状態によって処方を使い分けます。

小建中湯、桂枝加芍薬湯、大建中湯、潤腸湯、麻子仁丸、乙字湯、大黄甘草湯、防風通聖散、通導散、大黄牡丹皮湯、桃核承気湯、三黄瀉心湯、大承気湯、調胃承気湯、大柴胡湯、因蔯蒿湯

 

6.慢性胃炎、胃潰瘍

慢性胃炎は生活上のストレスの蓄積などにより胃の表面が常に荒れた状態となる場合(表層性胃炎)や、胃粘膜の機能低下や老化などにより胃酸が出にくくなる場合(萎縮性胃炎)などがあり、前者の場合はストレスの軽減を、後者の場合は体質改善を考慮する必要があります。一方、胃炎が進展して潰瘍化したものを胃潰瘍といい、これに十二指腸潰瘍を合わせて消化性潰瘍と言います。消化性潰瘍は再発を繰り返し易く、漢方薬の継続により再発を抑えることが可能になります。なお、若い女性で胃の調子が悪い場合は、胃アトニーや胃下垂を考慮する必要があります。

四君子湯、六君子湯、茯苓飲、安中散、人参湯、五苓散、柴苓湯、平胃散、半夏瀉心湯、芍薬甘草湯、柴胡桂枝湯、四逆散、小建中湯、黄連湯、胃苓湯、黄連解毒湯、桃核承気湯

 

 

7.血の道症(冷え症、生理不順、生理痛)

血の道症とは、女性の子宮を中心とした血液の流れの過不足や血流が滞ることに伴って生じる身体的な不調を言います。血の道症を解消するためには主に子宮に温かくかつ潤沢に血液を循環させる処方を用います。

桂枝人参湯、芎帰膠艾湯、四物湯、温経湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、温清飲、桂枝茯苓丸、折衝飲、通導散、大黄牡丹皮湯、桃核承気湯、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、五積散

 

8.不妊症

不妊症の場合、男性側に問題がある場合と女性側に問題がある場合があります。それだけでなく、妊娠を妨げる何らかの異常がある場合(器質性不妊)とそのような異常が無い場合(機能性不妊)があります。漢方が得意とするのは機能性不妊です。

男性側に問題がある場合は、精子の量が少ない場合や運動能に異常がある場合などがあり、腎精の不足を補うために八味地黄丸、補中益気湯、また滋養強壮系の処方を用います。

女性の場合は血の道の低下および卵子の老化などの問題が考えられ、以下のような処方を用います。

桂枝茯苓丸、桃核承気湯、加味逍遥散、折衝飲、当帰芍薬散、温経湯、補中益気湯、人参湯

 

9.更年期障害

閉経に伴う女性ホルモンの分泌の乱れに伴って自律神経の働きが不安定となり、様々な症状が発生します。年齢としては42~55歳くらいの女性が該当し、十人十色の症状が現れます。また女性の方にとって、この年齢の頃には家庭内の諸問題が重なる時期でもあり、ストレスにより自律神経の働きが不安定になりやすい(自律神経失調症)時期でもあります。症状の出方によって処方を使い分けますが、むしろ血の道の改善を優先した方が良い場合もあります。

当帰芍薬散、半夏百朮天麻湯、苓桂朮甘湯、釣藤散、桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、甘麦大棗湯、加味逍遥散、抑肝散、桂枝茯苓丸、温清飲、桃核承気湯、半夏厚朴湯、抑肝散加陳皮半夏、女神散

 

10.アトピー

アトピーはアレルギー反応が皮膚で起こり、それに伴って皮膚炎が起こる症状を言い、漢方では水毒を解消する処方や体質改善を狙った処方を用います。皮膚炎の状態によって大きく乾燥性と湿潤性に分けられ、また服薬される方の体力の有無によって用いる処方を使い分けます。

補中益気湯、当帰飲子、柴胡清肝湯、黄耆建中湯、温清飲、荊芥連翹湯、中味敗毒湯、葛根湯、治頭瘡一方、消風散、黄連解毒湯、清上防風湯

 

11.慢性頭痛

頭痛の症状がある場合は、脳腫瘍や塞栓、出血などの大きな病気が隠れている場合もあるため、西洋医学による検査を優先すべきです。漢方が得意とするのは大きな病気がなく慢性底に続く頭痛(常習性頭痛といいます)です。常習性頭痛には片頭痛、緊張性頭痛、心因性頭痛があり、用いる処方が異なります。

呉茱萸湯、七物降下湯、半夏百朮天麻湯、苓桂朮甘湯、桂枝加人参湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、五積散、桂枝茯苓丸、五苓散、釣藤鈎、黄連解毒湯、葛根湯、升麻葛根湯

 

12.肥満

体脂肪や標準体重が20%辺りを超えて来ると肥満となります。漢方で肥満を治療する場合は、漢方薬と共に軽い運動や減食を行うことが基本となります。テレビなどで宣伝されていることもありますが、肥満の代表的な処方は「食毒」に用いられる防風通聖散です。防風通聖散は体力があり便秘気味で皮下脂肪や内臓脂肪が多い方、いわゆる脂肪太りに用います。一方、体力がなく汗をかきやすく肌に張りがない、いわゆる水太りの方には防己黄耆湯を用います。

防風通聖散、大柴胡湯、桃核承気湯、通導散、防己黄耆湯、九味檳榔湯

 

13.高血圧

高血圧症はほとんど自覚症状がなく進行します。その結果として徐々に動脈硬化が進行し、将来、心臓発作や脳卒中などを引き起こすリスクが高まります。中等度及び重症の高血圧の場合は、漢方の適応より、先ずは西洋薬を用いて血圧を下げることを優先します。漢方には即効的に血圧を下げる効果はありませんが、血圧を上げる様々な要因を改善する効果(根本治療効果)が期待できます。

七物降下湯、八味地黄丸、黄連解毒湯、温清飲、釣藤散、防風通聖散、柴胡加竜骨牡蛎湯、大柴胡湯、大承気湯、三黄瀉心湯

 

14.うつ病

うつ病は、気分が沈んで何事にも悲観的になり感情や意欲が低下し、再発を繰り返すことが少なくありません。重症の場合は西洋薬の抗うつ薬の利用を優先すると共に漢方薬を併用します(西洋薬を優先するのは自殺防止のためです)。女性の更年期障害から来るうつ病の場合は加味逍遥散などの血の道症の漢方薬を用いることがあります。

柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、柴朴湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、加味逍遥散、女神散、加味帰脾湯、温胆湯

 

15.尋常性挫創(ニキビ)

ニキビは、毛穴に皮脂が詰まることによって起こりますが、炎症を伴うものと伴わないもの(コメド)に分かれます。炎症を起こすニキビは詰まった皮脂に細菌が繁殖することが原因となります。顔を手で触ると手についた菌によりニキビが広範囲に広がるため、顔を手で触らないようにして清潔に保つことが大切です。またニキビは便秘や肝機能の低下によって悪化します。アレルギー体質があるとアトピーに発展することもあります。

漢方薬では体質改善や便秘の解消の他、血の道を改善したり、表熱を取り去り炎症を抑えるような処方を用います。

当帰芍薬散、桂枝茯苓丸加薏苡仁、温清飲、荊芥連翹湯、排膿散及湯、桃核承気湯、清上防風湯、十味敗毒湯、桂枝茯苓丸

 

16.腰痛

腰痛と一言で言っても様々な原因が考えられます。①悪姿勢、過運動などを原因とする筋肉や靭帯の炎症によるもの、②ぎっくり腰、椎間板ヘルニアなど骨や関節の障害によるもの、③内臓や全身症状の影響から来るものなどです。②の場合は痛みが強い場合が多く西洋医学療法に頼る必要があります。また同時に漢方薬を併用すると治療効果や予防効果が高まります。

牛車腎気丸、桂枝加朮附湯、疎経活血湯、附子湯、五積散、桃核承気湯

 

Posted by 薬剤師 井手